みよには、忘れられない思い出あった。
みよは、いつも、石屋で働いている。
みよの仕事は、多岐にわたる。いろんなことをしなければ、ならない。
みよの職場には、たくさんの職人さんがいる。職人さんと言うのは、石を削ったり、磨いたりして頑丈な、石材や、石造りの墓や、獅子や、ライオンを掘ったりする職人である。
石を一生懸命、つるつるにしたり、綺麗にするのも、彼らの仕事である。たくさん、職人さんがいるものだから、その家の人だけでは、お世話をするのは。大変である。で、ものであるから、みよは、この石材店で働いているのだ。
みよの仕事は、まず、朝ご飯を作る、みよの働く石材店を営む家族の朝ご飯や、職人さんは、朝早いので、時々、職人さんたちの分も作る。
という事は、朝、早く起きなければ、ならない。
みよは、最初の内は、朝、起きるのがつらかった。
しかし、だんだんと、慣れていった。
それに、朝、早く起きると、すがすがしい。朝の四時ごろや、五時半、六時半などの空は、夜がだんだんと、朝になろうと、空が、明るくなっていく。
みよは、それが好きだった。
それに、早く起きないと、石材店の主で、その石材店を営む、家族の長の貫太郎に、怒られる。
「おい。みよは、まだ寝てるのか。起きろ、朝だぞ。」と怒られるのだ。
この貫太郎、いや、石屋の旦那さん。親分さんは、とても、元気がいいというのか、何と言うのか、よく、かんしゃくを起こす。
特に、朝などは、家族の皆が、そろわないと、きまりが、悪いのだ。
で、あるものだから、みよは、朝の早くから、朝ご飯を作る。
貫太郎は、この時、もりもりご飯を食べる。だから、それも、しっかりと、作る。
おみよは、朝ご飯を作るのが好きだった。特に、里子母さんと、作るのが好きだった。
里子母さんというのは、貫太郎の妻で、しずえと、シュウヘイのお母さんである。
お母さんと言うと、みよちゃんには、お母さんがいない。おみよちゃんが、高校生の時、お母さんは、病気でなくなったのだ。
だから、みよにとって、里子母さんは、お母さんのようで、あった。みよは、時々、思う。
「母さんが、生きてたら、今、私は、母さんとも、朝ご飯を作ったり、したのだろうか。」と、思う。
そう思うと、なんだか、寂しい気持ちになるのだが、みよは、その気持ちに負けずに、
今日も、頑張るのだ。
そう、貫太郎も、みよにとって、お父さんのようであった。
貫太郎は、よく怒る。人をふっとばす。曲がったことが嫌いで、とても、頑固である。
おしゃべりが、少し苦手で、口より、手の方が早い時もある。
みよもよく、叱られる。怒られる。
その時、みよは、怖くて、頭が、真っ白になるときもある。
その時、貫太郎は、何やってんだ。と怒る。しかし、その時、貫太郎は、みよの事を罵ったり、おい。とか、お前。とは、言わない。ちゃんと、名前で、みよと呼ぶ。
みよは、この時、怖さの中にも、貫太郎なりの優しさがあるのかな。と思う。
親分さんは、怖い。だけど、ちゃんと、私の事を、みよと、呼んでくれる。
私も、皆の家族なのね。と思う。そう思うと、嬉しくて、いい気持ちになる。
この事を、お手伝い仲間の竹田さんに、はなすと、それは、親分さん。きっと、ミヨちゃんの事、家族だと思ってるんだよ。
僕なんか、間違えたり、ミスしたりすると、おい、竹田。だよ。親分さん、口下手だからさ。本当は、いいんだよ。みよちゃん、頑張ってね。って言いたいんだよ。
だけど、照れくさいっていうかさ、なんていうかさ、下手だから。伝えられないんだよ。きっとね。」と、笑った。
竹田さんは、貫太郎の店の事務方さんである。最近は、石屋さんといえど、事務作業が大変であるため、事務員をやとっているのだ。
竹田さんは、シュウヘイより、三つ年上だ。でも、ミスを時々、するので、貫太郎に叱られている。
竹田がそういうと、そうかしらと思って、みよは、嬉しくなった。
そして、竹田さんも愛されてますよと、竹田に言った。
愛されているというと、こんなことがあった。貫太郎がこの間、ふらっと、どこかに行って、この間のうさぽんまんと、同じ、うさぎちゃんの帽子を、竹田とみよ、それから、しずえ、シュウヘイに買って来たのだ。
女の子には、ピンク。男の子には、黒、ブラックを買ってきたのだ。
里子は、「あら、お父さん。どうなさったんですか。?こんなに、たくさん。」といって、笑った。
すると、貫太郎は、「いや、得意先の人から、貰ったんだ。うちの若い衆にって。」と、ボソっと、言った。
おきんばあちゃんは、それを聞いて、「おい。貫太郎や。あたしには、何にもないのかい。?あたしだって、若いよ。吉永小百合だよ。あたしゃ。」と、言った。
おきんばあちゃんが、そういうと、「貫太郎は、ばあちゃんにゃ、人形焼だ。これも、得意先の人が、ばあちゃんにって。」と、ボソッっと、言った。
その人形焼は、箱入りだった。一個や、二個ではなかった。
箱には、ドレスタニア名物「人形焼。」と、書いてあった。
それを貰うと、おきんばあちゃんは、「これ、いいのかい。こりゃ、全部、あたしのだからね。貫太郎、あんたは、大した男だよ。」といった。
おきんばあちゃんがそういうと、シュウヘイは、黒うさぽんの帽子を被りながら、
「お父さん。これ、いいよ。いい帽子だよ。でもさ、これ、誰がくれたの。?得意先って、誰。」と、言った。
シュウヘイがそういうと、貫太郎は、「子どもにゃ、関係ないことだ。得意先ってのは、得意先だ。」と、言った。
貫太郎がそういいうと、しずえは、不思議そうに「でも、そんな得意先、あったかしら。でも、帽子や人形焼まで、私たちにくれるなんて、素敵な人だわ。パパ、ありがとう。」といった。
その顔は、とても、かわいらしかった。
貫太郎は、その顔を見て、癒された。けれど、しずえのそんな顔を見てると、今の自分が、悪人になったような気になった。
しずえがそういうと、竹田が、「親分さん。本当に、得意先ですか。僕は、知らないですよ。」と、いって、笑った。
竹田がそういうと、貫太郎は、「竹田。」と、どなった。
その声は、とても、大きな声だった。
竹田は。その声に、少し、びっくりして、「親分さん。ごめんなさい。」と、謝った。
竹田が謝ると、「だれでも、いいじゃないか。粋なお方がいたんだよ。粋なお方がね。
まあ、少し早めのクリスマスの祝いってことで、いいんじゃないのかね。年寄り孝行な、方だよ。そのお方はね。」と、言って、笑った。
その時、みよは、おかしかった。さっき、自分の事を吉永小百合だ。といった人が、今度は、自分の事を年寄りだといったのだ。
本当は、笑いたかったが、みよは、我慢した。
みよが、我慢していると、おきんばあちゃんは、いつもの調子で、「何、笑ってんだよ。おう、おう、おう、おう。だまってみてりゃあよう。」と、怒った。
しかし、おばあちゃんがおこると、里子母さんが「いいじゃないですか。笑うって、事は、いいことですよ。笑いは、いいものですよ。ねっ。みよちゃん。」と、いって、笑った。
みよは、その時、嬉しかった。嬉しくなると、お母さん。と思って、心の中が温かくなった。
里子がそういうと、おきんばあちゃんは、「そうかい。?まあ、里子さんがそういうなら、許してあげるかね。まあ、今日は、人形焼に免じて、許してやるよ。みよ。」と、
言って、笑った。
この時、みよは、また、嬉しくなった。
嬉しくなるとおきんさん。と思った。
そう思うと、涙が出そうになった。
みよは、それも、堪えた。しかし、こらえきれなかった。
涙は、悲しい時にもでるが、嬉しい時にもでるのだ。涙と、不思議なものだ。
とても、とても、不思議なものだ。
みよが泣くと、おきんばあちゃんは、それを見て、「何。泣いてんだよ。最近のお手伝いさんてのは、人前で、ピーピーなくのかい。あー。いやだ。いやだ。世もすえだね。こりゃ。」
と、言って、笑った。
みよは、この時、嬉しくなった。少し、悪口みたいだったが、今日のおきんばあちゃんの、悪口は、一味違っていた。
おみよは、そんなおきんばあちゃんの話を聞きながら、とても、小さな声で、
「おばあちゃん。」と、言った。
おみよがそういうと、しずえが、杖を突きながらこっちにやってきて、
「ねえ、みよちゃん。どうしてないてるの。」と笑った。
しずえがそういうと、シュウヘイは「そりゃ、姉ちゃん、おみよちゃんは、感激したんだよ。プレゼント。もらえてさ。ほんとに、いい人だよな。お得意さん。感謝しようぜ。おみよちゃん。」と、みよにいった。
みよは、そのシュウヘイの話を泣きながら、「ハイ。ハイ。」と、いって、聞いていた。
シュウヘイがそういうと、しずえは、「そう。シュウちゃん。お仕事を頑張ってれば、いい事って、あるものね。パパ、お仕事頑張ってね。」といって、笑った。
貫太郎は、そんなしずえの笑顔を見て、凄く自分が悪人になったような気になっていた。
この日、外の夜空は、とても、綺麗な星空であった。
その中で、お月様が、貫太郎のように、まるまると、太ったお月様が、美しく輝いていた。