船を待って。ヤスオンの冒険。
雨が降っている。雨は、天から降ってくる。
ポチャン。ポチャンと、ゆかちゃんは、口をぽかんと開けて、宿屋の屋根から、したたたる雨の粒を見ていた。
ゆかちゃんは、可愛らしい声で、「なんだか。ヤスオンみたい。いつも、泣いてるもんね。」と、いった。
すると、ヤスオンは、「そうかい。僕は、いつも、泣いているかい。」と、聞いた。
ゆかちゃんは、「ウン。ヤスオン。人きりだっていったけど。いつも、戦いが終わったとき、泣いてるヨね。」と、笑った。
ヤスオンは、ゆかちゃんが笑うと、「おい。ウッサ。大人を笑うもんじゃない。君にも、いつか、この気持ちがわかるから。」と、小さな声で、いった。
ヤスオンが、ウッサ。と、いうと、ゆかちゃんは、ウッサじゃないもん。ウッサだけど。
ゆかは、ゆかちゃんだもん。」と、言った。
すると、ヤスオンは、「そうかい。僕は、ウッサの方がいいと思うよ。だって、うさぎみたいでかわいいじゃないか。嫌いかい。うさぎと、言った。
すると、ゆかちゃんは、「おかーさんがね。つけてくれたんだ。ゆかって、名前。だから、私は、ゆかちゃんなノ。」と、いった。
その時、嬉しそうにゆかちゃんはいったが、ピンク色の目をキラキラさせて、悲しそうにした。
ヤスオンは、それを見て、「ゆかちゃん。君とあっとき、君は、奴らに追われていたね。
そうか、そうだったのか。」と、優しくゆかちゃんの頭をなでた。
ゆかちゃんは、「おかーさんも、おとーさんも、弟も、「お前の目玉は金になるって、殺されちゃったンだよー。」と、泣いた。
この子は、サータニアの娘子である。
サータニアの目は、この国の裏の市場で、高値で取引される。
ヤスオンは、この子は、自分と同じだと、思った。
なぜならば、自分も、アルビダという血の色がきれいな紫で、これも、また高値で売れる。
だから、この子を見ていると、かつてアスミ姫が、自分の事をたすけてくれたことを思い出した。
人間のアスミ姫。僕に生きる希望を与えてくれたアスミ姫。
そんな彼女の事を思い出すと、力が出てて来た。
彼女もまた、このココアニアの空を見て、雨空を見て、泣いているのだろうか。
僕は、人きりだ。だけど、僕が人を切って、助けられる命があるのなら、喜んで、僕は、切ろうと思った。
そう思うと、涙が出てきた。ヤスオンは、ゆかちゃんをぎゅっと抱きしめた。
ゆかちゃんは、ヤスオンが泣くと、「あー。ヤスオン。ないてる。」と、泣きながら笑った。
ヤスオンは、それに、「君もないてるじゃないか。ウッサ。」と、言った。
ゆかちゃんは、それに、「だから、ゆかちゃんさってば。」と、また笑った。
ヤスオンはそれに、「僕は、ウッサと呼ぶよ。君の事。うさぎみたいでかわいいからね。」と、言った。そして、こういった。「ウッサ。泣きたいときは、泣いても、いいんだぞ。」と、いった。月並みの言葉だが、ゆかちゃんに、精いっぱいの言葉をヤスオンはかけたのだ。
ヤスオンが、そういうと、ゆかちゃんは、「うん。そう。ゆか。泣いてもいいんだ。」と、言った。
ヤスオンは、それに、「うん。いいとも。空だって、今日は泣いているんだから。」と、いった。
ぎゅっと、小さな、ピンクの宝石。温かな宝石を胸に抱きながら。
かつて、姫が、そうしてくれたように。
この日、空も泣いていた。雨が降っていたのだった。
ゆかちゃんもまた、ぎゅっと、ヤスオンを抱いていた。
温かく、大きなその体を。抱いていたのだった。
もうはなすまいとして。
ぎゅうと、している二人。
ヤスオンがいった。もう船が出る時間だ。隣の町へ行こう。姫を助けなくちゃ。と、いった。
ゆかちゃんは、もっと、こうしていたいよと思ったが、旅に出るよ。と言われて、
「ウーン。わかった。」と、言った。
その瞳は、ナミダで、光って、ピンク色がよく分かった。
彼女の目は、黒く、それがいい背景となって、美しかった。
それを見て、ヤスオンは、「愛おしいな。守りたいな。」と思った。