夜は、皆眠る。ある人は、仕事の疲れを取り、ある人は、学校の疲れ。いや、なんだか、学校の疲れというのは、何か、気がひけるというか、申し訳ないというか。贅沢な悩みだと思う。しかし、彼女、彼は、疲れているのだ。
遊び疲れ、学び疲れているのだ。
なんだか、やっぱり、ずるっこのような気がするが、まあ、許そう。彼らは、ずるい子なのだ。文字通り。
夜、アラタは、テレビを見ていた。
テレビは、面白い。遠い国で起きていることも、近くで起きていることも、見せてくれる。
あんな、四角い箱なのに、なんでも、見せてくれるのだ。今日は、プロ野球、明日は、サッカー。明後日は、大相撲というように。
サッカーというと、こづえは、サッカーが好きらしい。足に、ハンディがあっても、大地を踏みしめて、風を受けて、さわやかな風の中、ゴールを目指す。彼らを見ていると、自分も、体を動かしたくなる。スポーツの前では、ハンディがあるとか、ないとかは、あまり関係ないと、こづえは、おもうんだヨね、と、可愛さの中にも、温かみのある懐かしい声で、アラタに、言った。アラタは、「ハァ。なんだよ。神様かよ。姉さんは。」とか、「王様かよ。」と、言って、何か、イガイガ言った。
ここは、大人しく、そうだね。お姉ちゃんとか、言えばいいのに。思春期の男の子というのは、わからない。アラタが、イガイガいうと、こづえは、そうよ。ワタシはね。王様。可愛い王様なの。クイーンなの。ヨ。と、言った。
アラタは、それを聞くと、また、可愛い声で話したと、思って、イラっとした。
普通に話せよ。と、思った。けれども、そうは、言いながらも、アラタは、お姉ちゃんの声が少し、好きだった。学校でも、アニメが好きな生徒たち、特に、高等部のお兄さんたちから、こづえは、可愛いと、評判で、あの、アスミちゃんには、及ばないが、隠れファンが、多かった。
アラタは、それが嬉しかったが、嫌だとも、思っていた。
俺の姉さんは、漫画の人じゃないやい。と、思っていた。
それに、自分の方が、ルードルヒのようなスターになれるはずだ。と、思っていたので、何か、羨ましかった。
でも、こづえが、前まで、自分の足のことをどこか、責めていたので、学校で、そんな風になっているのは、弟ながら、安心していた。
でも、どこか、嫌だった。思春期の不思議である。
2人が、テレビを見ていると、里子母さんが、
「はい。アラタ。こづえ。寝る時間ですよ。」と言って、テレビを切った。
テレビでは、植木等が、ふざけていた。
子供は、寝る時間ダィネー。と、まるで、こちらの母さんの声が、聞こえたのか。というくらいにそう言った。
こづえは、その時、アー。ママのコエが聞こえたのネ。と、可愛く、言った。
その時、こづえが、ケラケラと、笑ったので、
アラタは、笑うつもりがなかったが、笑った。
アラタは、こづえが、畳から杖で立ち上がる時、よろけたり、倒れたりしないか、心配した。
いつも、お姉ちゃんが、何かする。戸を開ける。立ち上がる。階段を上る時は、心配になる。しかし、階段ののぼりおりは、もう慣れた。そんなこと、心配していたら、姉ちゃんが箸を転がしても、心配してしまうから。
それに、アラタが、そうして、心配していると、こづえは、ニコっと、いたずらっぽく、笑って、可愛いほっぺにすこし、笑いジワを作りながら、「何、心配シテルの、シンパイしたって、何も、出ないヨ。」と、言うので、もう、心配は、しない。
けれど、心配してしまう。そして、こづえに、可愛い声で、心配シタッテ、何モ出ないゾ。と、言われる。この、一連の流れ。クレージーキャッツじゃ、あるまいし。
けれど、アラタは、心配するのだ。
こづえも、また。そうアラタにそう言うのをたのしみにしているのかも、しれない。
そうこう、やっているうちに、夜は、ふけていく。
すると、里子、母さんが「ちょっと。ふたりとも、何やってるの。早く寝なさい。と、言う。
母さんがそう言うと、こづえは、「はーい。ママ。おやすミと、言う。
その時、アラタは、おやすミって、どこの挨拶だよ。」と、怒ったが、こづえに、「もう、あーちゃん。寝るときまで、プリプリ。そんなんじゃネェ。セレアちゃんに、キラわれるヨ。」と、ちょっと、注意された。
アラタは、セレアは、関係ないだろ。と、思ったが、言わなかった。
アラタは、眠くなってきた。
そして、あくびをひとつした。
こづえは、それを見て、アハハハ、あーちゃんのあくび、アクビのあーチャンだ。と、笑った。
この野郎と、思ったが、なんか、可愛かった。
アラタは、それが、なんとなく、嬉しかった。
可愛いと、言えば、そのやり取りの後ろで、おりんばあちゃんは、眠いやら、寝ているやら、な夢うつつ、やらで、こっくり。こっくりとしていた。
それも、また、なんか、可愛かった。
勘十郎は、自分と、里子の寝室で、寝ていた。
高いびきをかいて寝ていた。
その声は、部屋の外からも、よくわかった。
ドラのような声だった。
アラタは、その上の二階の自分の部屋で、
また、あくびをし、セレアちゃんに、小さい声で、この場にいないのに。おやすみなさい。セレアと、言って、眠った。
向かいの部屋から、ドスンドスンと、すこし、うるさいといえば、うるさいし、日常のいつもの音だといえば、そうな、杖のゴムが床を叩く音がした。
こずえは、これから、自分のベットに向かうのだ。と、アラタは、思った。いや、明日の時間割かな?共、思った。
この音を聞きながら、アラタは、眠る。
これが彼の1日の終わりの合図なのだ。
彼は、天使に導かれて、いや、いたずらな悪魔かな?に、導かれて、眠りにつく。
そして、元気な朝を迎えるのだ。
朝があり、夜がある。それは、このお家においても、そうであったようだ。