アタシの父は、ワコクで、有名な落語家だった。
だから、アタシは、生まれてから、たくさんの落語家さんと、寝食を共にすることが多かった。
と、いっても、まだ、子どもであったから、なにもなかったんだけど。
と、まあ、アタシは、洛中の娘出であるし、私の周りの落語家たちにとって、洛中は、師匠、芸の世界の親といっても、過言ではなかったから、アタシに、手を出そうなんてヒトはいなかった、
色んな落語家がいた。乃木さんに出会ったのも、そんな頃だった。
乃木さんは、兄の直樹さんのように、海外の国々を相手に、貿易をする貿易会社に勤めろ。と、お父さんに言われたみたいだ。
けれども、乃木さんは「僕は、僕の行きたい道を行く。僕の人生の主役は、僕なんだ。」と、声を大にして、当時、ワコク落語界で、一番、面白いといわれていたアタシの父に、弟子入りを志願したそうだ。アタシなら、そんなことできない。少なくとも、その頃の小さいアタシじゃあ、できやしない。そう思った。
今の大きいアタシでも、できやしない。今のアタシには、落語があるから。小さいころは、小説家になりたかった。
けれど、アタシは、落語の子だだから。落語の方が、好きになってきてしまったわけでございます。
落語って言うのは、面白い。男にも、女にも、子どもにも、娘にも、サムライにも、なれる。
こんなにいろいろな人になれる仕事も、他に、ねぇってものでございます。
高座に上がれば、女、男、関係は、ありませんで。この喉と、声、そして、この発声、「アーーー。」という風なこの美声。美声というと、よく、ソプラノは、顔があまりよろしくないと、言いますが。
私の顔はどうですか。?カメリア人の方や辛国の女の子たちには、負けますが。
ワコク、ナデシコで、いいでしょ。?ワコクの女は、いい女。ワコクの紅葉はいい女。ワコクの話は、良い話。言うでしょ。?えっ。言わない。そんな。ヨヨヨヨ。涙が、パラり、パラりと、
涙、涙といえば、ここに、エミリちゃんという、落語をやっている女の子が。女の子が。
「私、満島 エミリです。17歳です。奏山高校、二年でーす。」このエミリちゃん。
無類の落語好きで、ございまして、得意な落語は、がまの油で、ございます。
エミリちゃんは、来る日も、来る日も、さぁさぁ、お立合い。ここに、取り出したるは、がまのアブラ、がまが、驚いて、出した、冷や汗でございます。と、とまあ、お決まりの口上を、練習しているわけで、ございますが。この高校の落語部は、人が、エミリをいれて、5人しか、いないので、ございまして、5人と言うと、ちょうど、アイドルグループと、同じでございます。
「ハーイ。私、アイドルよ。みんな元気。ウフフ。歌を歌うわ。」とまあ、こんなものでございます。
しかし、この、落語部、皆、正真正銘、落語一筋で、ございまして、お歌や、ダンスなんてのは、一切、やっておりませんで。エミリの友達の、ミーちゃん。なんか、顔は、アイドル並みなのに、「アイドル。?知らないわ。私は、落語が好きなの。私は、落語をするために、ここに来たの。はっっあんも、クマさんも、与太郎も、皆、私を、待ってるのよ。何。?アンタ。アイドルになりたいわけ。?じゃあ、アイドル部にでも、入りな。うちは、落語部なの。餅は、餅屋よ。」と、言って聞かないので、ございます。うもぉ、声も、可愛いんだから、アイドルになればいいのにぃ。
と、まあ、そんなもんで、ございますから。そんな事も、言いたくなるものございます。
そんな落語部の部長、戸田くん。彼をエミリは、好きなのでございます。
だから、稽古も、練習も、リハーサルも、音合わせも、レコーディングも、ダンスレッスンも、耐えて、ガマの油を、稽古しているわけでございます。
戸田君は「エミリちゃん。今日も、頑張ってるね。僕、エミリちゃんのガマの油、好きだな。
エミリちゃんの声って、良く通るから、遠くまで、声が聞こえるよね。僕、良いと思う。」と、エミリちゃん、頑張ってね。」と、応援するわけでございます。
そういわれると、エミリ。単純で、ございますから。ハンサム、いや、イケメンな戸田くんに、言われると、「嬉しい。アタシ。頑張るね。」と、言わんばかりに、来る日も、来る日も、ガマの油、ガマの油で、ございます。
みーちゃんなんかも、そのことを話すと、「良かったね。エミリちゃん。良かったね。」と、可愛らしい声で、言います。
そういうと、エミリ、友達で、親友、大親友のミーちゃんに、そういわれると、嬉しくて、お国訛り、リュウキュウ訛りが出て、「そう。サー。いつも、ガマの油、ガマの油だけどぅ。まさか、戸田くんに、頑張ってね。って、言われるとぅサー。うれしいネ。やっぱりさ。アタシモ、女あだからさ。こんなでもぅ。だから、嬉しいもんは、嬉しいよぅ。」と、言うわけでございます。
このエミリちゃん。学校では、親しいお友だち、以外、恥ずかしいので、リュウキュウ訛りで、話したことは、ございません。なもんですから、この事を知っているのは、親しいお友だち。それも、女の子だけでございます。
男の子たちの前では、リュウキュウ訛りで、話したことは、ありません。えっ、なんでかって。そいつは、お前、野暮ってもんでございます。
出来れば、お茶は、つけたくないもので、ございます。
しかし、どうしたものか。この頃の恋と、いうものは、なかなかうまくいかないもので、
人間と言うのは、聞きたいことは、なかなか、聞けず、聞かれたくない事は、よく聞かれるものでございます。いやはや、この時分で、人間を語るのは、なんだと思いますがね。この時分から、男の子と、女の子っていうのは、昨日まで、手を繋いで、帰っていたのに、今日から、何だか、意識しちまって、一緒に帰れない。はたまた、なんだか、ドキドキしちまうものでございまして。
とまあ、そんなことが、エミリちゃんにも、起きたわけでございます。
あんまり、聞かれたくないお国訛りを、戸田くんに、聞かれちまったわけでございます。
そんな事、あるなんて、おもっても、見ないもんですから。エミリちゃんは、「うわーん。」と、泣くわけです。エミリちゃんが泣くと、アタシもお茶を目のあたりにつけて、泣かなきゃ、いけないもんですが。エミリちゃんの事を思うと、複雑でございます。しかし、これは、ハナシで、ございます。アタシも、心苦しいですが、これは、お話しでございまして・・・・。
しかし、そんな私を、泣いているエミリちゃんを寛大に、優しく、迎え入れて、くださった方がいます。「訛りなんて。恥ずかしがらなくても、いいよ。それに、エミリちゃんのリュウキュウ弁、可愛いと思ったよ。可愛いよ。可愛いよ。」と、励ましてくれたのです。
誰でしょうね・・・・戸田くんです。
いやあ、粋だ。さすがは、落語部、おエドの粋をよくわかってらっしゃる。
それを聞いた。エミリ、なんだか、嬉しくて、目に涙をためる。「ありがとう。戸田くん。ほんとぅに、ありがとね。」思わず、お国訛りが出た。
いやあ、いい話だ。ここは、一つ、アタシも、お茶を目の下につけないとね。
おや、おやあ、おやあ、本当に涙が出ちまった。
お茶より先に、いやあ、ガマの油みたいだ。いい女の涙は、ガマの油でございます。
いやあ、貴重ですよ。エミリちゃん。ナンクルナイサーでございます。
涙の~後ぉ~に~はぁ~虹もぉ~でぇ~るぅ~。
恋~のぉ~船ぁ~たぁ~びぃ~、長くてぇ~いけねぇ~。
それでも~ぅ。我ら~ぁ~。行かねば~ぁ~ぁ~ぁ~ならぬ。
恋とは、難しいもので。けれど、それは、それは、良いもので、ございます。
神代の昔から、幾代にも、語られてきたものと、聞いております。